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本当に大切なもの

式辞

 霊峰白山の峰々は、今なお白く神々しい雪を抱き、私たちの街を静かに見守っています。校庭の桜の木々に目を転じれば、枝先はほんのり色づき始め、春の訪れを告げています。この美しい季節の変わり目に、小松市立南部中学校第68回卒業証書授与式を挙行できますことを、心から嬉しく思います。九年間の義務教育を終え、力強い表情でここに座る161名の卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。

 皆さんと過ごした時間を振り返ると、まず思い浮かぶのは、一人一人の持つ大きなエネルギーです。授業や行事での活発な姿、昼休みのグラウンドを全力で走り回る姿、放課後、汗にまみれて部活動に取り組む姿など、皆さんは、南部中に命のエネルギーを吹き込んでくれる存在でした。時には、その溢れるエネルギーが空回りし、先生方や友達とぶつかることもありました。悩んだり、迷ったり、突っ走ったりしながら、思春期の葛藤の中で、自立に向かって苦悩する姿がありました。

時を経て3年生になった皆さんは、生徒会スローガンである「進笑果敢」のもと、持ち前のエネルギーを自己の成長とまわりへの貢献へ向けるようになりました。

春の修学旅行では、原爆資料館の展示に深く心を痛める姿がありました。直視できないほどの広島の惨状や、自分たちと同じような若者が無念の中で命を落としたことに、たとえようのない怒りや悲しみを感じていました。世界情勢が混とんとする中、戦争の怖さと平和の尊さを実感する旅でした。

夏が近づき、青き春を謳歌するかのように、生徒たちが躍動し始めました。

部活動の大会では、多くの競技で県大会に進出し、北信越大会へ駒を進めるチームや選手もありました。地域クラブでの躍進も目覚ましく、全国大会での活躍もありました。一方、あと一歩のところで勝利に届かず、悔し涙を流した生徒もいました。どのような結果であっても、青春をかけて仲間とともに努力した日々は、皆さんの最高の思い出となっているでしょう。

実りの秋、生徒一人一人が立ち上がり、つながる南部中がありました。運動会が行われた小松ドームには、各団の円陣による鬨の声がこだまし、仲間を応援する熱い思いがありました。全身全霊を込めて表現したダンスタイムは圧巻であり、勝敗を超えて、一つの目標に向かってエネルギーを爆発させる姿は、見る者の心を強く揺さぶりました。

文化祭では、合唱やステージ発表を通して、目に見えない絆を形にしました。一人ひとりの個性が重なり合い、七色のハーモニーを奏でたあの合唱は、まさに心がつながり合い共鳴した瞬間でした。

思い出の詰まった中学校生活最後の冬、校内には受験に向けて自分自身と格闘する3年生の姿がありました。放課後のサザンテラスで問題集と向き合う瞳の中に、自分の力で未来を拓こうとする強い意志を感じました。3年前の春も白山は同じように白き雪を湛え、みんなを見守っていました。風景は変わらずとも、南部中での時間は、皆さんを大きく変えました。どうか、3年前の自分に向けて、堂々と自己の成長を伝えてください。

 

さて、我々が生きている現代は、生成AI・ロボット技術が目覚ましく進歩しています。指先一つで世界中の情報が手に入り、困ったときはAIが助けてくれます。漫画や映画で描かれた世界が、今まさに現実になろうとしています。一方、テクノロジーの進化は負の側面も加速させています。大量に生成されるフェイクニュースや動画は、もはや本物と区別がつきません。

このような時代を生き抜くために、必要なことは何でしょうか。私は、「真実を見極める知性」と「大切なものを感じ取る感性」であると考えています。

「真実を見極める知性」とは、溢れる情報の前で立ち止まり、物事を謙虚に疑い、好奇心をもって探究する姿勢です。何事も自分の頭で考え、深め、真実を追い求める、その過程が、必ずや知性を磨くことにつながるでしょう。

そして、その「知性」を支えるものが、「大切なもの感じ取る感性」です。フランスのパイロットであり作家であったサンテグジュペリの代表作に「星の王子様」があります。子供向けの文体でありながら、大人を含め広く長く愛されるこの作品には、「本当に大切なものはなにか」というメッセージが込められています。登場する王子様とキツネとのやり取りの中に、次のような一説があります。

 「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えない。かんじんなことは、目に見えないんだ。」

皆さんはこの3年間、たくさんのことを自分の心で感じてきました。たゆまぬ努力とあきらめない気持ちでつかんだ勝利の味。時にはぶつかり、涙の後に通じ合った友情。誰かのために行動したときの、すがすがしい気持ち。

皆さんが経験し感じ取ってきた「勇気」「信頼」「思いやり」というものは、目に見えません。しかし、間違いなく脳や筋肉に刻まれ、豊かな感性となって心の奥深くにしみこんでいることでしょう。そして、その豊かな感性で、世界を感じてください。人と接してください。

透き通る青空  金木犀の薫り 家族のぬくもり かけがえのない友達  当たり前すぎて見落としがちですが、世界は美しさや優しさで溢れています。

「真実を見極める知性」と、「大切なものを感じ取る感性」。これらを両輪として世界を自分の足で歩き、自分の心で直接感じてください。皆さんの持つ有り余るエネルギーを、手のひらの上で消費されるネット情報のためではなく、自ら真実を掴み取り、大切なものを守るために使ってください。そのことが、人生をより豊かなものにするとともに、世界を幸せにする礎となるでしょう。未来は皆さんの手にかかっています。

保護者の皆様、お子様は9年間の義務教育を終えようとしています。巣立っていくわが子の背中は、いとおしく、そして誇らしく見えるでしょう。先の「星の王子様」の一説は次のように続きます。

「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間なんだ。」

皆様がお子様に費やした時間は、かけがえのない宝物としてお互いの心にしまい込まれているでしょう。これからも大人に向かって歩み続けるお子様を、温かく見守ってください。

 最後になりましたが、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様、並びに本校の教育活動に多大なるご協力をいただいております地域の皆様に、厚く御礼申し上げます。今後とも、新しい世界へ一歩を踏み出す生徒たちを、導いてくださいますようお願い申し上げます。

いよいよお別れの時です。心の中に、大切なことを見極める知性と感性を育て、制限時間も解答用紙もない自分の未来に挑戦し続けてください。持ち前の大きなエネルギーで、世界を変えてください。

さようなら そしてありがとう 皆さんの人生が幸多きことを祈り、式辞といたします。

 令和8年3月13日            

小松市立南部中学校 校長  亀田 憲一郎